肉食は私たちをどこに導くのか?

もともと肉食ではなかった日本人。この先私たちはどこへ行くのか

狂牛病・・・
日本人には縁遠いこととしてあまり注目を集めなかった
この脳がスカスカになってしまうという牛の病が遂にこの国の牛にも発見されました。

以前よりよくいただくご質問に
「店長は穀菜食を勧めるが、当然お肉も食べないと体に悪いですよね・・」
というものです。

社会的現象として「狂牛病が怖いから牛肉や牛乳を避ける」
ということがスタンダードにはなってきますが、
日本人が戦後信仰してきた「肉食こそ文明的」というそもそもの前提に、
狂牛病だけが問題ではないことを知っていただきたく
この記事を転載させていただきます。

中川信男


肉食がつくる「食糧危機」と「環境破壊」



1999年5月号 正食協会刊 『正食』より抜粋
フリージャーナリスト:片山 明彦

六歳の息子がいいます。「七歳の誕生日にはマクドナルドに行きたい」と。以前は家族でミスタードーナッツに行くこともありましたが、穀物菜食中心の食生活となってからは、ファーストフードとよばれるものにはすっかり縁遠くなっていました。
ハンバーガーなどには食指も動きませんが、食べたことにない息子にとっては「禁断の味」として魅力的に映るのでしょう。なるほど、家庭でいくら正食を実践していても、一度外に出ればそこはファーストフードのオンパレード。お金さえあれば宝飾ワールドが満面の笑みで歓迎してくれます。

今回は飲食業の中でトップを占めるハンバーガーをはじめとした肉食に焦点をあて、改めて現代社会の中で正食のもつ意義について考えたいと思います。



一頭の牛が食卓を変えた

1999年1月から始まったテレビ番組「世紀を超えて」シリーズが話題になりました。特に第一回の放送「一頭の牛が食卓を変えた」は肉食の拡大が食糧危機をもたらすというショッキングな内容でした。なぜそれほど肉食が大きな問題となっているのか、放送の内容を肉付けしながら最初に報告します。

古代、たくましい牛は崇拝の対象でした。それが、家畜を意味する英語の「キャトル」と資本の「キャピタル」が同じ語源ということからもわかるとおり、家畜を代表する牛は、神への供物からの富の象徴へと変化していきました。財産の一つとして世俗化した牛は、次には単なる商品にすぎなくなりました。

こうした変化の背景には遊牧民による牧畜文化の普及があります。牧畜文化の発達したヨーロッパでは、それはやがて傷んだ食肉の臭みを消すために香料をもとめ、さらに広大な牧草地を確保するために植民地主義を産みました。

牛はもともと草食動物です(雑食、広食といわれる人間も実はそうです)。高カロリーの穀物を大量に摂取しようとすると、反すう胃の消化物の正常な作用を妨げ、消化器系の病気を引き起こすといいます。その一方で、穀物飼料を食べた牛の肉は脂肪を多く含み、柔らかくなります。いわゆる霜降り肉です。

19世紀初め、牛肉への愛着の強いイギリスの貴族や地主階級が霜降り肉を好むようになり、牛に穀物肥料を与える肥育方法が広がっていきます。それは新大陸アメリカで顕著でした。

新大陸では、アメリカインディアンが「グレートスピリット(大精霊)」とあがめるバッファローが絶滅寸前まで殺され、インディアンから奪った土地に次々と牛が放牧されていました。また「コーンベルト」と呼ばれる地帯ではトウモロコシ栽培も盛んになり、牛と穀物が結びつけられてきました。そして今やどんな状態になっているかと言いますと、ある文明批評家の言葉を借りれば「牛が人間を食っている」といってもいいほどになっているのです。

穀物飼料を減らせば世界の飢餓救える

NHKの番組によると、世界のトウモロコシ年間生産量約六億トンのうち、約四億トンまでが穀物飼料に使われています。その穀物飼料の一割でも人の食用に回せば、世界から餓えはなくなるというのです。もしそうした場合、肉の生産量は減りますが、それは米国人と日本人が五回に一回、肉料理を減らすだけでしかありません。

富める国が貧しい国の食卓を奪っているのです。

牛を一キロ太らせるには八キロもの穀物が必要です。世界中に一三億頭ともいわれる牛の全体重は、地球上の五八億人の人類の体重の合計よりも重いのです。それだけでも気の遠くなるほどの量の穀物が必要だということがおわかりでしょう。

日本では、肉を口にすることは長らくタブーでした。明治五年(1872年)に明治天皇が宮中での肉食禁止令を解除してからも、国民の蛋白源といえば魚が主でした。それなのに、日本マクドナルドが1982年以来国内の飲食業で売上高一位を独走し続けるほど、急速に肉食化が進んだのはなぜでしょう。

そして「マック」はやって来た ―アメリカの余剰農産物戦略に乗り―

60年代初め、自国の農業育成を掲げてヨーロッパの国々が市場を閉ざし、アメリカは穀物の余剰在庫を抱えました。そこで高度経済成長時代に入っていた日本に余った穀物を売りつけようとしたのです。50年代半ば、アメリカの余剰農産物であった小麦と脱脂粉乳が、日本で学校給食のパンとミルクに使われた例を思い出しますね。ついでに言えば、アルマイト食器の底にどろどろとたまったあの脱脂粉乳のまずさも。

そうした前例もあり、アメリカの目論見はまんまと当たりました。当時、まだ欧米の10分の1以下だった肉の消費量はぐんぐんと伸び、畜産農家は競って穀物飼料による近代経営へと参入していたったのです。

企業と一体となったアメリカの戦略は巧みでした。最初は安い卵や鶏肉から始め、肉の消費量を拡大していきました。「アメリカ政府が主催するフードショーには大きなファーストチェーンを必ず参加させた。私たちは世界の人々の食生活を変えようとした。穀物を輸出するためだったらどんなことでもやった」と、番組のインタビューで当時の米国農務省次官補は証言しています。

1971年という年は、日本人の食生活をまさに大きく変えた年として記憶されるち思います。マクドナルドの上陸とカップラーメンの発売です。

ハンバーガーは今や日本の味、おふくろの味?

ハンバーガーは1880年代、米国テキサス州で生まれたといわれます。1948年にマクドナルド兄弟がロサンゼルス郊外で始めたハンバーガー店に目をつけたレイ・クロックがチェーン化に成功。今では全米に1万2000店余り、世界では111の国と地域に2万3000を越える店を展開しています。年商4兆円というのは日本の防衛費に匹敵する額です(数字はいずれも97年度)

90年ごろの調査ですが、アメリカの7歳以下の子供は平均して1週間に1.7個のハンバーガーを食べます。7〜13歳は6.2個(ほぼ1日に1個!)。13〜30歳が5.2個とやや減少するのは、ステーキやロースとビーフを食べるからです。全米の牛肉消費量の約四割はハンバーガーにはさまれるひき肉(パテ)であり、米国人は平均すると一生のうちに体重500キロの牛七頭分を胃に収めるのです。

日本マクドナルドによると、1999年2月1日現在で店舗数は2848。さらに年間450店の出店を目標にしており、一日一店以上。ということは今日も日本のどこかでマクドナルドの店がオープンしているわけです。ハンバーガー販売個数は97年度6億7400万個で、国民一人当たりにすると5.4個。これにモスバーガーやロッテリアなどを加えると、かなりアメリカ人に似た数字になるのではないかとも想像されます。

まだ450店舗だった84年当時、「2000年には1250店に」と言っていた日本マクドナルドの藤田田社長でしたが、2000年を待たずして目標の二倍もの店舗数をやすやすと突破してしまいました。アメリカが肉食拡大の切り札として送り込んだハンバーガーは、増殖といっていいほどのすさまじい勢いで日本人の食卓を席巻し、今もとどまることろを知りません。

結局、日本人の牛肉消費量は、30年前に比べて一人当たり年間7.7キロと七倍にも増えました。

12歳までの子供に刷り込まれる味覚

番組中、新宿の高層街を見下ろすビルの一室で、藤田社長は、人間は12歳までに覚えた味が“おふくろの味”になる、という持論を展開します。「12歳までの子供にハンバーガーを食べていただければ、(その子は)死ぬまで食べていく」。いわゆる味覚の刷り込み(インプリンティング)です。

銀座第一号店の出店から四半世紀以上が過ぎ、「ゴールデンアーチ」と呼ばれるマクドナルドのポールサインがすっかり日本の日常風景に溶け込んだ今、ハンバーガーがおふくろの味になったとしてもおかしくない状況は既にあるのです。訪米した日本のボーイスカウトの一行が、シカゴで地元紙記者の取材に対して「アメリカにもマクドナルドがあるとは知らなかった」と答えたと報じられたのは、もう10年も前のことなのですから。

緑や動物が犠牲に 病み餓える世紀へ

牛の放牧地をつくるために、日々膨大な面積の緑が失われています。中南米で飼育された牛から100グラムのハンバーガー1個を作るのに、20〜30種の植物、約1000種の昆虫、何十種類もの鳥類、哺乳類、爬虫類など、およそ75キロもの生物が犠牲になっているといいます。途上国の熱帯雨林を焼き払って肥育すると、企業にとってはコストの節約になります。「安いハンバーガー」は、取り返しのつかない高価な代償に支えられているのです。

肉食の代償=環境破壊はほかにもあります。列挙してみましょう。

まず砂漠化。世界中で毎年、四国と九州を合わせた面積が不毛の地と化しています。気候の変化のほか人為的要因として多くの人が指摘するのが、過放牧です。過放牧とは、草地の再生能力を超えて家畜を放牧することで、植生がはぎ取られた裸の土地は風と水に浸食されやすくなります。もちろん放牧のために森林を伐採、焼き払うのも、直接、砂漠化につながります。

砂漠化は、人間のすみかや耕作地を奪い、動植物の生存を危うくします。

次の温暖化。畜産などから発生するメタンは、二酸化炭素の二五倍もの温室効果 があります。牛は、地上から放出されるメタンの12%を排出しています。温暖化は気候を変化させ、砂漠化の原因にもなります。

さらに特にアメリカでは地下水の枯渇と汚染が深刻です。全米の水総消費量のほぼ半分は家畜飼料の栽培に使われているといわれるほどです。また牛一頭につき1日21キロという大量の排泄物は、アンモニアと硝酸塩による汚染を広げています。

そしてこうした環境破壊の上に、前述した食糧危機への不安があります。

今アメリカ政府と巨大穀物商社ファーストフードチェーンは中国を狙っています。
中国のマクドナルドは97年末で184店。アジアでは日本、台湾についで多く、牛肉の消費が急増しています。穀物商社も中国に拠点を設け、将来予想されるトウモロコシの輸入自由化をにらんで、穀物飼料の需要拡大に向けた布石を打っています。

しかし、もし中国が日本をしのぐほどの穀物輸入大国になったとしたら、アメリカのコーンベルトの穀物供給能力はパンクし、一気に食糧危機が現実のものとなる可能性が高いのです。

こうして急速な肉食化のツケは、私たちにブーメランのように返ってきます。食卓に、私たちの体に、そして子孫に。

次に肉食が健康に与える影響についてリポートします。

肉食化が進むと“糖尿病天国”
― 広島大学医学部が日米で比較研究 ―

鶏卵を含む食肉中の飽和脂肪酸とコレステロールの過剰摂取は、動脈硬化の原因になります。動脈硬化は、心臓病、脳梗塞などを引き起こします。また、糖尿病の三代合併症の一つである糖尿病性腎症が進行すると、動脈硬化につながる高脂結晶になりやすくなります。

日本の例をあげるまでもなく、経済成長と肉食の拡大は、ワンセットといっていいほど密接な関係にあります。さらにライフスタイルの欧米化は生活をスピードアップさせ、ハンバーガーをはじめとした、「いつでも、どこでも、同じものが、手早く食べられる」ファーストフードがもてはやされるようになりました。それを支えたのがクルマ社会の発達です。

適度な運動は、ストレスを解消し、内蔵の動きを高め、糖代謝を改善するなどのほか、善玉 コレステロール(HDL)を増やして動脈硬化を防ぎます。しかしクルマ社会に慣れると、どうしても運動不足になりがちです。

日本人男性の糖尿病死亡率、脂肪摂取量、自家用車の登録台数の三つの増加曲線は重なり合うそうです。食生活の欧米化と身体活動の低下が糖尿病を増やしたのではないか、というわけです。

有病率の高い日系人 広島県民の倍以上

広島大学医学部チームは、30年余りも前にいち早く欧米化の進展を予期し、在米日系人との比較研究から将来の日本人の健康状態を占おうと考えました。

ハワイで共通の日本語と言えば広島弁だったほど、広島出身の日系人が多かったことが幸いしました。調査は、広島県内とハワイで三親等までの近親者のグループ100組を選び、健康状態を比較する方法で行われました。

ハワイでは1970年から2〜4年おきに計10回、78年からはロサンゼルスでも始まり、7回行われました。うちハワイで5回、ロスで4回の調査の結果をまとめたのが表です。(省略)

それによると、ハワイ在住の日系人の糖尿病発生率は20.3人(40歳以上の人口1000人あたりの年間発生者数、以下同)、ロスは同じく13.6人、両日系人では17.2人でした。年齢が高くなるほど、また女性より男性の方が糖尿病にかかりやすいこともわかります。

こうした結果から、広島大学医学部は、在米日系人は広島県人より約2〜3倍の高率で糖尿病になっていることを突き止めました。また一般のアメリカ市と広島県外の地域住民に比べても在米日系人の糖尿病有病率が高いこともわかりました。これは、ハワイ公衆衛生局の死亡統計からでも、ハワイに住む日系人の糖尿病有病率が同州の白人に比べて約二倍だったことが裏付けられています。

どうしてアメリカの日系人には糖尿病が非常に多いのか。いろいろ調べたところ、「食べ物しかない」(山木戸道郎・広島大学医学部第二内科教授)とう結論に達しました。

ファーストフード 脂肪分多く濃厚な味 食べる瞬間の「快楽」求める

山木戸教授によると、一日の食事で摂取するエネルギーは、県民も日系人も1700〜1900キロカロリーとほとんど変わりませんでした。しかしその中身は、県民が米や麦などの炭水化物が目立ったのに対し、日系人になると動物性蛋白質が増え、摂取量の多い脂肪もその三分の二は動物性で占められていました。糖分をたくさん取っていたのも日系人の特徴でした。

日系人と似たような結果は、アメリカンインディアンのピマインディアンにも見られました。彼らは伝統的にあまり病気にならなかったとされますが、現在では80〜90%の高率で大人の糖尿病が発生しているそうです。

あまりに急速な肉食化は糖尿病の増加を招くのです。それは日本人の場合、男性より女性の方が強く影響される可能性も指摘されており、こちらも気になります。

食事全体に占める脂質のエネルギー比率が25%を超えると、生活習慣病(成人病)の点で心配だとされますが、各チェーンの主なハンバーガーはその比率を軽くオーバーしています。

また、ファーストフードは塩分や糖分が高く、味覚を速やかにマヒさせます。マヒした舌は高脂肪で濃厚な味を求め続け、食べる瞬間をおいしくさえできたらと、栄養価や安全性を犠牲にしていきます。「快楽の巻き返し」と呼ばれる現象です。「舌を馴らされて生涯食べ続けるとしたら、ハンバーガーは問題」と、山木戸教授も警鐘を鳴らしています。

味覚に関連していえば、練り製品をはじめとしたほとんどの加工食品に使われている食品添加物には、体内から亜鉛を奪う作用があります。亜鉛欠乏症になると、味覚やにおいがわからなくなります。専門家によると、味覚異常を訴える人は増えています。

「(遺伝のほか)食事によって糖尿病が起こることはしっかりわかった。次は(糖尿病予防のための)理想食といったものを打ち出したい。それは日本食が中心になると思う」と山木戸教授。今後の研究にぜひ期待したいものです。

★☆ おまけ ☆★

2001.9.12 『朝日新聞』天声人語

人間界にも、食べ物のタブー(禁忌)というのがある。たとえば、イスラム教徒はコーランの教えに従って豚肉を食べない。こんな俗説を聞いたことがある。豚肉はしっかり火を通さないと食中毒になりやすい。その危険を避けるための知恵だった、と。俗説ではあるが、なるほど、と思わせるところはある。

狂牛病については、飼料原因説が有力だ。死んだ家畜などを粉にして混ぜ合わせる肉骨粉が牛の世界にあの病気をもたらしたというのだ。考えてみれば、牛はそもそも草食動物である。それに、同類の牛も含めた「肉や骨」を食べさせて育てる。これを「近代畜産が生み出した強制的共食い」という専門家もいる。どうやら人間が勝手に自然界のタブーを破ってしまった。

その病気が、さらに「人畜」の境界を越えて人間界に侵入する。犠牲者にはたまったものではないが、不遜な人間への罰であるという見方もできるかもしれない。しかも病原体はウイルスでも細菌でもなく、プリオンといわれるたんぱくの一種らしい。研究は始まったばかりといっていい。治療法はまだ見つかっていない。

この「文明病」が日本に上陸した恐れがある。いや、あまり大げさな言い方はしない方がいいのかもしれない。それでなくても、この病気は必要以上に恐怖心をあおる可能性がある。正確な情報に基づいた的確な行動、これが肝要である。その情報を管理する役所の責任は重い。そんなとき米国の事件が飛び込んだ。これがテロだとすると、最悪の「「文明病」だ。人間の病は深い。


中川信男のおすすめの本

「ファーストフードが世界を食いつくす」 エリック・シュローサー著
草思社刊 1600円+消費税
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/479421071X/ref=sr_aps_d_1_1/249-9993907-0293966