山下:
この作業所での経験を終えて、次のステップに進まれる方も見送ってこられましたか?
織田所長:
リタイアされた方は数名いらっしゃいますが、就職という次のステップに進んだ方はまだいません。若い人はぜひともここを巣立っていって欲しいと思うのですが、なかなか・・・。
山下:
きっと居心地がいいんですよね(笑)。
織田所長:
それは本来よくないことなんですけどねぇ。もっともっと、社会と繋がって欲しいのです。この施設ももちろん意味のある場所だと思ってはいますが、やはり一般社会とは違う面ががあります。「ここだからそれは通じるんだよ」ということを、彼女たちにもっと意識してもらうことも必要だと感じています。
山下:
そういったことを、職員の方々は日々の作業の中で伝えていらっしゃるんですね。
織田所長:
「あなたが手にしているものを売っているお店に行ってごらん。このまま商品になるんだよ」と話をします。実際にお店に足を運び、その商品が陳列されている様子、商品の値段をみて帰ってきた方は、「ちゃんと丁寧にしないとだめだね、これは商品なんだね」と報告してくれます。
ときには、自分のこだわりが邪魔をするケースもあります。そういう場合には、「あなたがいやでも、業者さんの依頼通りにやることが必要なの」と諭すしかありません。が、あまり厳しすぎると皆さんつらくなるでしょうから、また引きこもってしまうことのないように、かつ次のステップも見据えてという、日々常にバランスをみながらの指導です。
事実、それぞれの商品は業者様からの大切な預かり物で、現金と同じです。いくらごめんなさいと謝っても、それで仕事がなくなるかもしれません。仕事をくださいとお願いするのは簡単ですが、いただいたお仕事を通じて信頼関係を築いていくのは本当に大変な道のりです。やまぶきさんに任せれば安心といわれるために、これまでの人たちが頑張って築いてきた信頼を、ちょっとしたミスで崩すことは実に簡単なことなんだということもいつも話しています。
山下:
みなさんが成長される姿をごらんになることも多々あると思いますが、特に嬉しい経験はどういったことでますか?
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| 支え合える仲間の存在も、いまではみんなにとっての大きな喜びのひとつ |
織田所長:
最初はネガティブな方が多いです。特に突然の障害を負った方々は、その時点で気持ちがマイナスに傾いてしまいがちですが、作業や仲間との触れ合いを通じて、「そんなことないんだよ」ということを少しずつわかってもらえるようになり、考え方や行動に変化が現れ始めています。
例えばユニバーサルスタジオジャパンとか。家族が付き添ってもらわない限り、そんなところに行けるはずがないと誰もが最初は思っていたようなのですが、サポートさえあれば行けるということに気づいてくれたのも嬉しいですね。ああ、続けていてよかったなとつくづく思います。今では旅行やら食事やら、そんなにお金続くの???とかえって心配したくなるほどのアクティブさです(笑)。
1泊旅行にもこの前初めて行ってきました。以前なら、「ひとりでお風呂入れないし」「足が悪いし」「だから私は行かない」と「できないできない」で話が立ち消えていましたが、今回はみんなに「どうする?」と聞いたら、「行こう行こう!」とトントン話が進みました。まずは、これさえクリアしたら行けるということをメモに書いてもらいました。以前ならきっと「とにかく無理」と書かかれてたでしょうけど、この旅行前に回収したメモは、「これとこれだけ手助けして欲しい」ととてもシンプルかつ前向きな内容ばかりでした。
山下:
いままでは、ひとくくりに「できない」と信じてすべてあきらめていらっしゃったのでしょうね。
織田所長:
これはひとりでできる、それはここまでサポートがあれば大丈夫と細かく分析して、どうすれば実現できるかを考えてくれるようになりましね。ああすればいけるとか、こうすればできるとかを考えることで、自信もついてきたようです。また以前は人に頼むのは悪いと思っている様子でしたが、今ではみんな同じだし、支え合えばいいと思ってもらえるようになりました。
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| 楽しくおしゃべりしながらも、作業をする手はしっかり動かしますよ〜♪ |
山下:
すばらしいことですね。きっとお仕事をするにあたっても変化がでてきているのでしょうね。
織田所長:
仕事の面でもずいぶん責任感を持つようになってきましたね。忙しい時期には、「休まず来ないと」「もっと段取りよくしないと」という声があちこちから聞こえるようになりました。
山下:
まさしくチーム作りのプロセスですね。
織田所長:
ひとつひとつの積み重ねの結果でしょうね。外出にしても最初は、「いいからとにかくおいで」と近場で誘ってみる。そして徐々にチャレンジ度を上げていくわけです。私達は「とりあえずやってみよう!」の姿勢をねばり強く伝え続けました。
だって、やってみないと分からないと思うんです。やってみてだめだったら、それはそれでいいじゃないですか。ですから、「とりあえず説明を聞いてみてちょうだい。無理そうならいってくれたらいいから」と促しています。以前は話を聞く前から無理無理という姿勢でしたから、本当にすばらしい変化です。
山下:
いつかそのメッセージは伝わると信じて、語りかけていらっしゃったんですよね。
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| 「できない」と決めてかかるのはもう卒業。これからはどんどん自分たちの可能性にチャレンジしてもらいたい |
織田所長:
そう、きっといつかは、と。いつかはわからないし、ずっとそのときは来ないかもかもしれないけど、あきらめてしまっては元も子もないので、私たちはたとえ嫌がられても言い続けようと。だって、せっかく外に出てきてくれているのにもったいないですものね。
どうしてもお家だと、親御さんがちゃちゃっとお手伝いをしてしまうんです。だから必ず最初に、「放任ではないですが、ここではどこまでできるかをみていますし、ご自身でできるところは手助けしません」と説明をしています。個人個人できることとできないことは違うので、お手伝いする内容も異なってくるということをご理解いただけないと大変ですから。そもそも作業することだけがこの施設の目的ではないですし。
山下:
送り出される親御さんも、作業以外のことも期待していらっしゃるのですよね?
織田所長:
そうはおっしゃるのですが、やっぱり親ですから、辛そうだと無理をさせたくないし、楽しく過ごしてくれるのが一番と思っていらっしゃるんでしょうね。ですが、家では何でもしてもらえるのにここではしてくれない。だからここはイヤ、となるといけません。みなさんこの先いつかは、ひとりになる日が来るのです。集団生活に入ったり、ヘルパーさんに手伝ってもらって生活したりするときが来ても、自分の力でしっかりと生きていけるようにサポートしなくてはと思っています。ですから、頑張ったらここまでできるのに、というところはなんとしても引き上げてあげたいのです。