グルテンフリー/ノングルテン特集

「どこから始めればいいのかわからない…」「私はグルテンフリーをするべき?」そんな方に役立つ情報をまとめました。

最近よく聞くようになった「グルテンフリー」。
もとは小麦アレルギーや「セリアック病」という難病を持つ人々が間違えてグルテンを含んだ食品を食べないように、と食事療法として 取り入れられたことが始まりでした。
しかし、不思議なことに、小麦を長い間食べ続けてきたはずの欧米から
「そもそも小麦はよくない」という動きが起こってきたのです。
今では美容や健康のためにグルテンフリー生活を実践されている人がどんどん増え、
国内でもグルテンフリー対応のお店や商品が徐々に増えてきました。

とはいえ、まだまだ誤解されている事も多い「グルテンフリー」。
「グルテンってそもそも何?」「毎朝パンを食べてるけど、健康だよ?何が悪いの?」
「パンやパスタをやめるなんて私には絶対無理!」というお声もよく聞きます。

小麦やグルテンが人類にとって全て毒だ、というのは誤解です。
しかし、輸入小麦粉の農薬の問題など、
アレルギーや病気の人だけでなく、小麦を食べる全ての人に関わる話もあるのです。

あまりに身近にあって、だけどほとんど知らない「グルテン」と「小麦」のこと。
ノングルテン食を取り巻く環境や手軽にはじめる実践法など、お役立ち情報をまとめてみました。

そもそもグルテンって何?

グリアジン + グルテニン = 「グルテン」

グルテンとは、小麦に含まれている「たんぱく質」のひとつです。
一般的に「炭水化物」に分類される小麦粉の中にも実はたんぱく質が6~15%ほど含まれています。
そのうちのおよそ85%を占めているのが「グリアジン」と「グルテニン」。 小麦粉は水を加えて捏ねることで、このグリアジンの「弾力があるけど伸びにくい」という性質と グルテニンの持つ「弾力は弱いが粘着力が強く伸びやすい」という性質が結びつき、 両方の性質をあわせ持った「グルテン」というたんぱく質が生まれるのです。このグルテンの働きをうまく利用して、世界中で小麦を使ったさまざまな料理が作られています。

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グルテンが含まれている主な食品

小麦をメインに使った食品やお醤油などの調味料はもちろん、そうとは気づかないような品にも安価なたんぱく質源として入っていることがあります。 また、食材ではなく乳化剤や結着剤、防腐剤のような添加物として、はたまた加工肉の「つなぎ」や安い食品の水増しとしてもごく当たり前に使われています。

さらに、口にするものだけではなく、化粧品やサプリメントの中に入っていることもあります。 もし「グルテンを生活から全て除去したい」と思ったら、手に取る全てのものに気をつけなければいけないといっても過言ではありません。

では、なぜグルテン抜きの生活がこれほどまでに注目されているのでしょうか?

グルテンフリーはこんな方におすすめです
グルテン抜きの生活を余儀なくされている方 (セリアック病・小麦アレルギーなど)

近年、グルテンの摂取によって体調を崩す方が欧米を中心に増えています。
セリアック病は、摂取したグルテンが免疫系を刺激して特定の抗体を産生し、この抗体によって小腸粘膜が損傷してしまうという深刻な病気で、生涯にわたってグルテン抜きの生活をしなければいけません。 日本でも、小麦由来成分を使った石けんが原因で、購入した人々が小麦アレルギーになる大きな健康被害が生まれた事件がありました。
もちろん個人差がありますが、重篤なアレルギーを持つ方にとってもグルテン抜きの生活を送ることは絶対です。
こういう方は、小麦を使った食品を摂取しない事はもちろんですが、原材料欄やアレルギーに関する記載を注意深く見て、確実にグルテン由来の成分がないかよく見極めて購入する必要があります。
このような方にとって「グルテンフリー」は絶対に必要なもので、それだけに表示に対しても信頼できる基準が求められています。

小麦を食べると調子がすぐれないという方 (グルテン不耐症・過敏性腸症候群)

遅延性のアレルギーなど「すぐにひどい症状を起こすわけではないが、小麦を食べるとなんとなく調子がすぐれない」という人はかなりの数いるといわれています。しかし、その中で遅延性アレルギーの検査を受けている人はごくごくわずかで、ほとんどの人は自分が小麦に弱い体質であることを知りません。
小麦 しかも、小麦を食べている状態が当たり前になってしまい「この不調は小麦を食べたから?」と気付く機会も中々ありません
疲れやすさやだるさ、胃もたれなどの慢性的な不調が、普段食べている食事が原因だった、ということはよくあります。もしかしてそれは小麦を多く摂る食生活のせいかもしれません。
2週間ほどグルテンを抜いた生活をしてみて「調子がとても良い」という方は小麦に弱い体質である可能性があります。

ダイエット・健康維持をしたい方

ケーキやパンなど、小麦を含む食品は油や砂糖と合わせて加工される事が多いもの。
それらは微量な栄養素を含まない、いわゆる「エンプティーカロリー」であることが多いため、体重増加の原因となりがちです。しかも小麦には食欲を増進する効果や依存につながる作用があるともいわれており、まさに「ダイエッターの敵」。
欧米では、小麦を抜くことで小麦を使った加工食品とも距離を置くことになり、結果的に大幅な減量に成功したという人が増えてきています。これは欧米型の食生活をしている私たちも見習えるダイエット方法かもしれません。
実際に多くのダイエットアドバイザーや健康指導家は、グルテンフリーという言葉こそ使わないものの「パンや麺を減らした和食中心の生活」を推奨する事がほとんどです。

元々グルテンのせいで体調を崩されている方には、さらに嬉しい効果が。
グルテンの摂取を控えることで、それまで炎症を起こしたり悪玉菌が優性になっていた腸の調子が改善し、体に必要な栄養素を取り込む能力も改善します。健康になることはもちろんですが、肥満の一因は栄養バランスの乱れとも言われているので、そういう方にとって小麦抜きの生活は健康的なダイエットのようなもの。

現在特に体調の不良を感じない方でも、今日のごはんをパンからお米に変える事は身体にはデメリットのない選択です。そんな生活を続けていたら、思わず調子がよい自分に気づくかも。ぜひ一度試してみてください。

グルテンによって引き起こされる体調不良やトラブル

グルテンや小麦の摂取によって起こる体調不良やトラブル、体の不調は程度を問わなければ実に多彩です。
ここではその代表と言われているトラブルや病気をご紹介します。

セリアック病

「セリアック(シリアック)病」は小麦食中心の欧米で年々増加する自己免疫疾患で、グルテンの摂取を原因とする病気の中でも最もひどいものです。昔は数千人に一人の珍しい病気といわれていましたが、患者は年々増え続け、2016年の推計では欧州全体に500万人以上の人がセリアック病であるとされています(英国国立医療技術評価機構調べ)。

セリアック病の人は体の中でグルテンが分解できず、体がそれを異物と認識して免疫システムが過剰に働くことで、腸内が攻撃されて慢性的な炎症が起こります。 この炎症によって腸がしっかり機能しなくなり、栄養吸収障害をはじめとした以下のような様々な問題が出てくるのです。

  • 腹痛
  • 腹部膨満感
  • 下痢
  • 脂肪便
  • 便秘
  • 鉄欠乏性貧血
  • 栄養失調
  • 神経障害
  • 疲労感
  • 骨や関節の痛み
  • 発達障害(幼児)

(症状の出典:デジタル大辞苑)

セリアック病には今のところ有効な治療法はなく、症状を抑えるためにはグルテンを含まない食事を生涯続けるしかありません。上にあがったほかにも多種多様な症状があり、またセリアック病で免疫系が攻撃されることを発端として別の病気にかかってしまう例も増えているといいます。

小麦アレルギー

小麦たんぱく(グルテンを含む)は食物アレルギー物質です。セリアック病は自分の体の持つ抗原に対してグルテンが反応して免疫反応が起こりますが、アレルギーはアレルギー物質に免疫が過剰に反応して起こります。
食物アレルギーの有病率は一般的に児童が多いですが、大人になって突然罹患する人も増えています。また、近年では遅延性アレルギー検査によってはじめて自分のアレルギーを知る方も増えています。

即時性アレルギー

食べてすぐに身体に不快な反応が起こります。
皮膚のかゆみやイガイガ感からはじまり、痛み、じんましん、鼻づまり、くしゃみ、涙、下痢や腹痛、呼吸困難などの様々な症状が現れます。 アレルギー反応の程度は人によって違い、重い方は摂取してすぐ全身にアレルギー症状が発症し(アナフィラキシー)最悪生命を脅かすこともあります。これらもセリアック病と同様、基本的にはグルテンを含む食品を避けることで症状を防ぐことが主な対策となります。

遅延型アレルギー

摂取して数時間~数日後など、体内に入り吸収されてから症状が現れます。 発疹やにきび、肌荒れ、うつやめまいなどの精神神経症状、それに頭痛や疲労感など一見関係ないような多彩な症状を起こします。更に摂取から時間が経って症状がおこるため、摂取したものとの因果関係がわかりづらいアレルギーです。
調子が悪く感じる時に数日前の食事が原因だと思う人も多くはないため、かなりの日本人が自分の遅延性アレルギーに気づかずに過ごしているといわれています。 原因不明の不調が続く場合は一度遅延性アレルギー検査をしてみることもおすすめですが、通常病院で行われるアレルギー検査では即時性アレルギーしか診断できないため、遅延型アレルギーは専門機関で検査をお願いする必要があります。
保険が効かないため即時性アレルギー検査に比べて高額ですし、特に自覚症状がない食材に対しても陽性になる場合もあります。

グルテン過敏症/不耐症/非セリアックグルテン感受性

アメリカでは人口の15%がグルテン過敏症であるといわれ、そのうち99%が自分のグルテン過敏に気づいていないというデータがあります。
「なんだかグルテンを食べると調子が悪い...」という方はこれらに該当する可能性が高いです。セリアック病のような重篤な症状は出ないといわれていますが、これらが進行するとセリアック病になるとも言われており、軽いからと油断してはいけません。
セリアック病は免疫システムが体自体を攻撃しますが、グルテン過敏症は食事の内容物に大してだけ行われます。なので、体に出る症状はセリアック病より軽度といわれていますが、腸が傷つくという点では同じ。
免疫システムの大部分を占める腸が傷ついてしまう。ということは、様々な病気への危険性が高まってしまうということでもあります。決して軽く見てはいけません。
セリアック病と同様人によって症状は様々ですが、主な症状は以下の通りです。

  • 集中力の低下
  • 頭痛、偏頭痛、めまい
  • 気分の変調
  • 下痢・便秘
  • 消化器系トラブル
  • 発疹・湿疹
  • 膝や腰などの関節の痛み
食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(FDEIA)

即時性のアレルギーの中でも、特定の食べ物を摂取した後、数時間以内に運動をしたりお酒やアスピリン製剤を服用すると激しいアナフィラキシー症状が出るという特殊なアレルギーです。今までに起こった症例の約6割は小麦が原因となっています。(他にはエビ・カニや果物など)

サッカーやランニングなどのスポーツはもちろん、散歩や入浴などの日常の運動でも反応が起こることがあり、知名度も低く一般的ではありませんが軽く見てはいけないアレルギーです。通常のアレルギーと同じく原因になる食物を食べないことのほか、万一食べた後4時間程度は運動をしない等の対策が必要になります。

遅延型アレルギー=グルテン過敏症ではありません
~グルテンフリー生活のすすめ~

遅延型アレルギーもグルテン過敏症も正式な病名として確立しておらず、普通の病院に行っても診断が降りることはほとんどありません。「グルテンが人体にどう影響しているか」という研究はまだはじまったばかりで、人に対する十分なデータも集まっていない状況です。

現在でも遅延型アレルギーをしてもらえば検査で結果が出る事もありますが、その信頼性は今のところ100%ではないようです。
また、過敏症(不耐性)の場合はアレルギーの原因といわれるIgG抗体とは関係がないため、IgG抗体の反応を調べるアレルギー検査をしても グルテン過敏症かどうかはわかりません。

しかし、多くの人が自分の体の声に耳を傾けた結果として、 「小麦とグルテンは様々な病気に関連があるのではないか」という事に気付きはじめており、その結果として今のグルテンフリーのムーブメントがあります。

現在日本人の7人に1人が当てはまるといわれている「過敏性腸症候群(IBS)」も、今まで主な原因はストレスといわれていましたが、小麦などに含まれる特定の糖質に対する不耐性が関わっているのではないかといわれており、それらを抜いた食事療法「FODMAP(フォドマップ)」を推奨する医師も増えてきています。


グルテンが体に合わない、という程度で「病気」とされる事は現在の日本ではほとんどありません。 ただ、病気というほどでなくても気分と同じように体調にも毎日浮き沈みはあります。 それは周囲の人にはわからなくても、ご自分では気付かれるのではないでしょうか。 素敵な毎日を送るために、不調の原因になるものはできるだけ避けていきたいですよね。

グルテンに弱い体質なのかどうか、一番確実にわかる方法はグルテンを抜いた食事を実践してみること。 そして、グルテンを食べた時と、抜いた時のご自身の体の調子をよく観察することです。
おすすめは2~3週間程度ですが、数日で「あ、違う」と気付かれる方もいらっしゃいますし、 変わりがないと思ってピザやパスタを食べる生活に戻ったらどんどん体調が悪くなり 「抜いてた時はすごく調子がよかったんだ」とやめられて気付かれる方も。

自分の体の調子、揺らぎに自分で気付く事はとても大事です。 忙しい方や自分を犠牲にするような優しい方はついつい体の声を無視してしまいがち。 体からの微弱なSOSを無視し続けると、不調が当たり前になって、 結果病院で診断されるような大きな「病」になる…そういう人が沢山いるのが現在の世の中です。

自分の体の内側にある小さな声にすぐに気づけるのはあなた自身しかいません。

グルテンフリー生活を通して、自分の体に必要なものは何なのか、自分の体は食べ物を通じてどんな変化をしているのか。 ぜひこの機会に、自分の体の声に耳を傾けて、実験してみてください。

こむぎにまつわるよもやま話

もっとも日常的なグルテン「小麦」

1万五千年も前から人によって栽培され、今も世界三大穀物のひとつといわれる小麦。
古代から様々なかたちで食べられ、その遣いみちも小麦にとどまらず幅広く研究されています。

一般的に、人類が長いあいだ食べ続けてきた食品は安全性が高く、体にも悪影響は少ないといわれています。
では、小麦によって体調を崩す方がこんなにも増えたのはどうしてでしょう?
それは、小麦の流通をとりまく様々な「ひずみ」が大きな原因ではないかと言われています。

日本人と小麦
うどん:画像

日本人は「コメ」の民族と一般的に思われていますが、実は「ムギ」の歴史も相当古いもの。 日本における小麦の栽培は弥生中末期にはじまり、それから長い間、人々は玄米と麦を主食として生活していました。
小麦は外側の皮がとても硬く、コメのように粒のまま食べることができなかったため、粉状にして利用する食べ方が定着していましたが、飛鳥朝時代には「麺」で食べる食べ方が中国から伝来。 当時の国内の書物にも「うどん」「そうめん」などの記述があります。

小麦は長い間日本人の主食のひとつとしてエネルギー源になり、様々な形で私たちの生活を長いあいだ支え続けてくれました。 今も私たちは年間ひとりあたりで平均して30kg以上もの小麦粉を消費しているといわれています。 これはもちろん欧米の数字には遠く及びませんが、米の消費量が一人当たり年間46kg(米穀安定供給確保支援機構調べ/2016年)ということを考えると、かなりの量ではないでしょうか。

小麦アレルギーの原因は小麦じゃない?!

今食べている小麦は「ミュータント小麦」

現在私たちが食べている小麦は、その本来の姿とはかけ離れていることはご存知でしょうか。

人類ではじめて栽培されたのは「ヒトツブコムギ」という品種の小麦。
これは染色体がわずか14本しかないごくシンプルな遺伝子情報を持った品種でした。人々はこの小麦の栽培を15000年程前からはじめ、 そこから1900年代初頭まで、自然環境の中でわずかに進化したのみで、ほとんど変わらない姿で私たちの暮らしを支えてくれていました。
しかし、そんな小麦の姿はアメリカが国策としてはじめた「緑の革命」によって大きく変化します。

1940年代から始まった「緑の革命」では、農業の生産性を上げ飢餓を減らすという目的のために 穀物類を品種改良して、災害や干ばつに強い種を新しく作りました。
特に主要作物である小麦・トウモロコシ・稲などの品種改良は特に力を入れた開発が進められ、IMWIC(国際トウモロコシ・コムギ改良センター)では小麦の異種交配や遺伝子移入などの実験が重ねられました。

その結果、1980年までに何千種もの小麦の新種が誕生し、中でも生産性の高い品種は米国をはじめとした世界中に植え付けられました。 現在世界で作られている小麦の99%は「緑の革命」以降に作られた品種の小麦だといいます。

この矮性遺伝子を使った改良により、それまでも世界で最も食べられていた作物である小麦は 飛躍的な収量向上に成功し、歴史上最も大規模に生産・消費されるようになりました。
しかし同時に起こったこと。それは小麦自体の遺伝子構造の大きな組み替えです。


実際に、「緑の革命」で生み出された小麦のたんぱく質を親の品種と比較すると、どちらの親とも違うたんぱく質が沢山発見されます。 グルテンは特に交配によって大幅に構造が変化したといわれており、わずか1世紀前の品種と比べてみても、グルテンの遺伝子の量が増えています。

この時つくられた小麦は、人為的な交配実験ではありますが、「遺伝子組換え」ではありません。 しかし、遺伝子組換えのムーブメントが起こるはるか昔から大規模で人為的な交配を繰り返し遺伝子を組み換えたという点では同じようなものです。

(しかもこの実験には動物実験も人体への安全確認の試験も行われていません。この時作られた「ミュータント小麦」はその安全性も確認されず世界中に広がり、今も人々の体を蝕み続けています)

今や深刻な問題となっているセリアック病ですが、古くからの文献には小麦にまつわる病気はありません。 実際に、昔から栽培されていた品種では症状が出ないor軽い症状しか見られないという人も多く、 「セリアック病は緑の革命で作られたミュータント小麦による病ではないか」とも言われています。 (全ての人の症状が軽くなるという結果が出ているわけではありません) ミュータント小麦を作って以降、文明の進歩や食文化の変化もありますが、先進国では肥満が深刻な問題となり、健康を害する人が激増しました。

「緑の革命」のおかげでメキシコの小麦生産効率は3倍になり、飢餓に苦しむ数億の人々を救ったといわれています。
確かに「緑の革命」は世界の平和に大きく寄与した…しかし、それならなぜ今もなお南の国と北の国の貧富の差がこんなに大きく、先進国では小麦による病気が増えているのでしょうか。 「緑の革命」は一体誰のために行われたのか。長期的に地球を良くできたといえるのだろうか。当初は賞賛の嵐であったこの政策も、今では効果を疑問視する声が多くみられます。

だれにも影響がある!ポストハーベスト(残留農薬)の問題について

店で働きはじめて数ヶ月もすると、気がつけば鼻がグズグズするようになってきた。
ある日、鼻をすすりながらパン生地を捏ねていると、Sくんが僕に話しかけてきた。

「ワタナベさんも、ようやくパン職人っぽくなってきましたね」
「ホント?手つきが板についてきたかな?」
「違います。鼻すすってるじゃないですか。パン職人の職業病なんです」
「どういう意味?」
「小麦アレルギーだと思いますよ。僕は鼻よりも手のほうがひどいですけどね」

Sくんは、あかぎれでカサカサになった手を僕の目の前に差し出した。
「でも、小麦アレルギーのほんとうの原因は小麦じゃないって見方もあるんですよ。
 ワタナベさんは、輸入小麦のポストハーベスト農薬って知ってます?」

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』 渡邉 格

あまり知られていませんが、小麦には、グルテンが引き起こす問題のほかに「ポストハーベスト(post harvest)」と呼ばれる大きな問題があります。

ポストハーベストとは、輸入品の輸送中に、作物が虫や環境の変化によってダメになってしまわないよう、収穫の後にふりかけられる農薬の事。 スーパーで、ミカンやグレープフルーツなどに「防腐剤を使用しています」と書かれているものを見たことがあるかもしれません。 それがポストハーベストです。
日本から外国へ農産物を出荷する際、ポストハーベストをかける事は全面的に禁止されています。 しかし、日本へやってくる農産物にポストハーベストをかける事は禁止されていません。

私たちが食べている小麦はごく一部を除いてほとんどが外国からの輸入物。
輸入小麦は船便で輸送する最中に駄目になってしまわないよう、収穫した国の人たちが食べるものよりも 更にたっぷりの薬をかけて出荷されます。生育中にではなく、収穫して粉になった後に、です。

「基準は上回ってはいない」と国はいいますが、この輸入時の残留農薬によって健康被害が引き起こさているのでは、という指摘は実際にあります。
上に引用した渡邊さんのお話は、ポストハーベストの影響がセリアック病のように限られた人のみに起こるものではなく、 輸入小麦と接し続けていれば誰にでも起こる可能性がある影響だという事を示しています。

現在、日本では小麦、大豆、トウモロコシの9割以上を輸入に頼っている現状。
安価で品質が劣化しないよう大量の小麦を輸入するにはポストハーベストは必要なものとみなされており、どこかで規制されない限りずっと続くでしょう。

そもそも小麦という作物自体、農薬を大量にふりまいて作られる事が当然とされてきた作物であることも忘れてはいけません。
有機でない小麦は「収穫の数日前に除草剤をたっぷりつけると収穫量が上がる」とアメリカの農家の間では長く言われており、 致命的な有効成分を含む除草剤がごく最近まで一般的に使われていたという歴史もあります。
たっぷり農薬をかけて生育し、更に収穫後にも農薬を大量にまいて運ばれ...そうやって、小麦は安価な材料の代名詞となりました。
安いものにも高いものにも理由がある。小麦と農薬の問題を考えると、その言葉がしっくりと胸に入ってきます。

もはやこれは「グルテンが悪い」というだけの問題ではなく、小麦の大量生産における栽培〜収穫〜輸送〜加工〜調理にいたるまでの、全ての工程の問題が寄せ集まった結果でもあるのでしょう。

グルテンだけが悪者ではない

小麦を食べると調子が悪くなる方でも、「国産小麦だと大丈夫」というお声があがることも少なくありません。 そういう方が避けるべきは小麦のグルテンではなく、ポストハーベストのかかった輸入小麦なのでしょう。
グルテンに対してどれだけ体が弱いかは個人によって差がありますが、農薬は万人にいい影響を与えません。

先ほども言いましたが、現代では自覚症状があっても「小麦の『何が』原因で『どこが』悪くなっているのか」を特定する事はまだ困難です。
また、「小麦」そのものではなく、添加物や砂糖がたっぷり入った「小麦中心の食生活」によって調子を崩している方もいらっしゃいます。 他の食事制限や健康法と同じように、「グルテンフリー生活をしていれば絶対に健康でいられる」という話でもありません。

ここまでグルテンのもたらす影響についてお伝えしてきましたが、 「グルテンは絶対に体に悪い!小麦は食べるべきではない!」とお伝えしたい訳ではありません。 私たちに一番大事なのは、自分の体が「何を食べたら調子が良く/悪くなるのか」を知ることです。
その上で特定の食物に対して体にマイナスな反応があれば控える。もしくは減らす、除去する、違うもので代替する...幸い手はいくらでもあります。

もしかしたらあなたの体はグルテンが苦手だったり、食べると調子が悪くなったりしているのかもしれません。 はたまた輸入小麦の農薬でしんどさを感じているのかもしれません。 信頼できる情報を仕入れたら、まずは「自分」をじっくりと観察してみてください。
色々な体質の人がいますが、自分の体の微細な動きや調子を知ることができるのは自分だけ。 グルテンフリー生活を試してみる期間を、自分のコンディションをじっくり見つめる機会にしてみてください。

世界中に広がるグルテンフリーのムーブメント

グルテンフリーをめぐる各国のうごき

欧米は小麦食が中心のため、グルテンを食べてはいけないセリアック病患者の問題もとても深刻です。 彼らはグルテンフリーの食事なしでは生活が送れないため、しっかりしたグルテンフリー表示をしなければいけない。
そのため、日本よりもかなり早い段階で行政が表示基準の指導にはいりました。

各国の「グルテンフリー」表示の定義

以下はFDA(米国食品医薬品庁)の定めるグルテンフリーの定義です。
何をもってグルテンフリーといえるのか、という定義も国によって少しずつ違います。

〇FDA(米国食品医薬品庁)における「グルテンフリー」の定義

  1. 本来的にグルテンを含有しない食品
  2. グルテン含有穀物(スペルト小麦等)を成分として含有しない食品
  3. グルテン除去工程未実施のグルテン含有穀物(小麦粉等)を成分として含有しない食品
  4. グルテン除去工程を実施したグルテン含有穀物(小麦スターチ等)でも、 それを成分として使用することで食品中のグルテン含有量が20ppmを超える場合、そのような成分を含有しない食品

加えて、現在「グルテンフリー」について基準をさだめている各国の 定義は以下のようになっています。

○アメリカ:グルテン含有量20ppm(1gあたり20μg)未満

○欧州:グルテン含有量20ppm(1kgあたり20mg)未満
100ppm未満であれば、「超低グルテン食品」の表示使用が可。
乳幼児向け調整・補完食品への「グルテンフリー食品」
「超低グルテン食品」表示の禁止。

○CODEX委員会:グルテンの含有量20ppm(1kgあたり20mg)未満

ひとくちに「グルテンフリーの認証をとっている」といっても基準は全て同じではありません。

コーデックス、FDA(米国食品医薬局)、カナダ保健省、EU連合、FSA(英国食品基準庁)などでは、基準としてグルテン含有量20ppm未満を適用しています。
非営利公益法人GFCO(グルテンフリー認証機構)は、27か国700以上の企業の商品を承認していますが、グルテン含有量が10ppm以下であることを認証の基準にしています。

GFCOとは?
GFCO認証マーク

GFCO(Gluten-Free Certification Organization)はアメリカで最もグルテンフリーの基準が厳格な認証機関と言われています。GFCOの基準を満たすには、最終製品のグルテン含有量が10ppm(0.001%)以下でなければならない他、原材料や品質管理についての基準も満たし、年次の調査なども通らなければなりません。最近国内でもこのGFCO認証を取得した商品が増えてきました。

日本にもノングルテンの表示制度ができました

日本には今まで表示基準が全くなく、実際にどれ程グルテンが入っていても関係なく、それぞれの企業が自由に「グルテンフリー」とつけられる状態でした。
しかし、米粉と米粉を使った製品限定ではあるものの、平成29年の3月に農林水産省から以下のようなガイドラインが発表されました。

これは、特定の検査をして、グルテン含有量が低いこと、製造業者以外の第三者機関の検査を受けること などに「ノングルテン」という表記ができるというもの。
これによって、米粉とその加工食品でグルテン含有量が1ppm未満であれば「ノングルテン」を正式に名乗ることができるようになりました。
この基準は、欧米の主要な基準値(20ppm)よりも厳格なものです。

Q.米粉はお米だから全部グルテンフリーなのでは?

ノングルテン表示 認証マーク

ノングルテン表示 認証マーク

「米粉にはグルテンが入っていない。それなら全部グルテンフリーじゃないの?」と思われるかもしれません。しかし、グルテン(小麦由来)を原材料に使用していない事が、必ずしも完全なグルテンフリーと同じとは言えません。
複数の商品を作っている工場では、米粉製品と同じラインで小麦粉を含んだ製品を加工することがあり、 その最中で、成分が混じってしまう「コンタミ」という現象が起こることがあります。 小麦とグルテンは実に様々な食品に使われており、米粉と同じラインで使われた小麦がコンタミする可能性は大いにあります。
今までも小麦アレルギーの人が「グルテンフリー」だと思って手に取った商品に小麦がコンタミしていて事故が起こるなどの報告が起きており、 農林水産省のガイドラインはこういった背景をもとに策定されています。

元々「小麦」はアレルギー表示対象食品なので、10ppm以上の小麦総タンパクを含む食品であれば、「包装容器に小麦のアレルギー表示」をしなければなりません。
ですが、「大麦」や「ライ麦」など小麦以外でのアレルギー表示の必要はなく、重篤なアレルギー患者やセリアック病の方はパッケージの表示も信用しきることができない状態でした。
そういった現状に対して「ノングルテン表示」は役に立つ部分が大きいかと思います。
ただ、この対象は米粉製品のみです。小麦を一生除去しながら生活を送っていく人々の食をすべてカバーできているとは到底言えません。
そのため、今後は国内でもより幅広い分野で「グルテンフリー」に関する表示制度ができる事が望まれています。

「オルタナティブ」な選択肢

ここまで読んで、改めて「でもやっぱり小麦を食べられないなんて無理!」と思われた方もいるでしょう。 しかし、選択肢はいくらでもあります。ここでは改めて「グルテンフリー」を行う上で気をつけていく食品と、 代替できる食品をいくらかお伝えしたいと思います。

グルテンフリーを行う上で気をつけるべき主な食材

  1. 小麦、大麦、ライ麦を含むもの。
    (パン、パスタ、マカロニ、ピザ、ラーメン、うどん、素麵、餃子の皮、麩、スポンジケーキ、クッキー、など)
  2. 揚げ物 (衣に小麦粉を使用しているもの)、天ぷら
  3. 麦茶  (大丈夫、という説もあります)
  4. 十割でない蕎麦
  5. ビール
  6. 醤油(原料に大豆と小麦が1:1で含まれるものがほとんど。小麦を使用していない醤油ならOK。ただ、醤油に含まれる小麦は醗酵・貯蔵の過程でグルテンの成分はなくなる、ともいわれてます。一方で醤油で症状が悪化する人もいます。)
  7. フライドポテト(小麦粉をまぶしている場合もあり。ポテト自体にグルテンは含まれませんが、小麦粉を衣にしたものを揚げた油にはグルテンがまじっていたりします)

グルテンを除去した生活を送るには

代替食品(グルテンフリー食品)を利用する

患者数は多くはないと言われていますが、アレルギーやセリアック病の人は問答無用でこの対策をとる必要があります。
でも、パンやパスタ・ケーキ…食べられないとわかったら「食べたい」と思ってしまうのは人の常。

そんな時に助かるのが、グルテンを使わないいわゆる「グルテンフリー食品」です。 原材料やコンセプトなどは様々ですが、パスタやラーメンなどの加工品もあり、「本当に小麦を除去したい」という時には強力な味方になってくれるものばかり。 海外ではグルテンフリー専門のショップがあるほどですが、日本でもムーブメントの広がりに合わせて様々な商品が出てきています。

ただ、気を付けたいのはその基準。
日本のグルテンフリーに関する基準は「ノングルテン表示」だけなので、 「ノングルテン」以外の国内の「グルテンフリー」表示はメーカー独自の基準であり、統一された基準ではありません。 「グルテンフリー」という言葉だけに反応するのではなく、アレルギー表示や「ノングルテン」の表示も参考にして選んでください。

体への影響の少ない小麦を選んで食べる

アレルギーやセリアック病ほどの重い症状ではない、「食べられるけど少しずつ調子が悪くなっていく」という人にとっては 選択肢が広がります。
古代小麦
スペルト小麦粒

スペルト小麦粒

グルテンフリー運動の広まりにつれて「古代小麦」の存在が注目されることが増えてきました。

アレルギーは一説では「遺伝子組換えなどの激しい変化に人の体が対応できなくなった結果ではないか」とも言われており、 お米など他のアレルギーであっても、昔の品種であれば症状が出にくいといわれています。

小麦の遺伝子構造が「緑の革命」で変わってしまったと先ほど書きましたが、昔からの小麦は グルテン含有量が低いことが多く、過敏症程度の方であれば現代小麦ほどの症状が出ることは少ないといわれています。
(もちろん個人差はあります)

スペルト小麦は地球上で最も古い栽培穀物の1つと言われており、現在世界の95%で栽培されている「パンコムギ」の先祖にあたる存在です。
各国ではDinkel(ディンケル)、Spelz(スペルツ)などと呼ばれています。消化がよく栄養価も現代流通している小麦より優れており、グルテンが苦手でない人にもぜひ試してみてほしい食材です。

一方、「カムット小麦」とはエジプトの遺跡から発見された種を基に栽培した小麦の品種で、カムットとは古代エジプト語で「小麦」のこと。
デュラム小麦の先祖かもしれない、ともいわれています。

カムット小麦は、一般的な小麦の粒と比べて2~3倍大きさで、栄養価が高く消化も良い。タンパク質や脂質、アミノ酸、ビタミン、ミネラルも多いとのこと。
これらは人工的に大幅に手を加えて味や栄養を犠牲にしているいる現代の小麦にはない特徴といわれています。

国産小麦

「だれにも影響がある!ポストハーベスト(残留農薬)の問題について」の箇所でも書きましたが、小麦の害は実は農薬の害とも重なっています。 ポストハーベストによって健康を害している人たちは、国産小麦を選べば問題はかなり軽減するでしょう。

最近では「国産」というイメージの良さから、外食や加工品などでも「国産小麦使用」とうたっているところは増えてきました。 しかし、その割合が書かれていることはほとんどなく、 ほんのちょっとしか使っていないのにそのような表示をしているところも少なくありません。
自分で小麦粉を購入する際はなるべく国産小麦を選ぶこと、また、 外食や加工品を選ぶ際は疑問に答えてくれるような、信用できるお店やメーカーを選ぶ事をおすすめします。

毎日の生活の中で「小麦じゃない方」を選択してみる

現在大きな健康被害がなく、単に小麦を抜いて自分の体がどうなるか見たい、という方は、和食中心の食事に変えるだけでも違いが感じられるかもしれません。
今まで1日1回パンを食べていたのであれば週に1度にする、日替わりで食べていたパスタをライスにしてみるなど、選べる場所で「小麦でない方」を選んでいくことで、まず 「自分はこんなにも小麦を食べていたのか」と気づくでしょう。

小麦への感受性は人によって全く違います。 少しでも口にしたら命の危険性がある人から、調子が悪い時は小麦を避けている、という方。 はたまた輸入小麦だと調子が悪くなるけど、国産小麦であればそこまで症状は出ない人など、本当に多種多様です。 しかし、「小麦を食べるとどんどん元気になる!」という声はあまり聞いたことがないですよね。 そうであれば、現在世界中に流通している主要な小麦は、その影響の大小はあれど、あまり私たち人にとって良いものではないのかもしれません。

でも、そう言われても「よし、明日からグルテンを辞めるぞ!」という気持ちになれる方はきっととても少数派の、とても強い意志を持った方々だと思います。 パンやケーキ、パスタやラーメンなど、小麦を使った美味しい食品は無数にありますし、 小麦には依存性もあるといわれており、小麦が好きな人ほどやめる決意は中々できないでしょう。

(完全に小麦を除去した生活を送ることは、タバコをやめるのと同じくらい難しいといわれています)
グルテンフリー食品もどんどん増えてきて、グルテン過敏の人でも食べられるものはどんどん増えてきています。

もちろん、体調を大きく崩している方であれば今すぐ小麦を除去した食生活を送った方がいいでしょう。

ただ、そこまで事態が深刻でないかた、「小麦を食べると調子が悪くなる、だけど小麦のない生活は考えられない...」という方はもっと選択肢が広がります。

パンかおにぎりで迷ったらおにぎりにしてみる。1日1食は小麦のない食事をしてみる。 購入する小麦の質や産地を見直してみる、グルテンが入った添加物を避ける、グルテンフリー食品や古代小麦を使ってみる…できる事は沢山あります。 まずは自分にできる範囲で小麦の少ない生活を送ったり、腸内環境にやさしい食事を送ったり、グルテンフリー食品を賢く活用したり。体と心に相談して、無理なく続けてみてください。

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